抗体医薬品は、がん疾患や自己免疫疾患などの難治性疾患に対して高い治療効果を発揮しています。近年の医薬品の売り上げにおいてもトップ10の多くは抗体医薬品が占めていることからも、抗体の医薬品としての薬効は疑う余地もありません。一方で、抗体のもつ高い治療効果を保持し、より低費用で治療に用いることができるようにするために、抗体の物性・機能を改良し、低コストで製造できることが望まれています。このようないわゆる次世代抗体(改変型抗体)の開発と、そのための技術開発には多きな期待が寄せられています。
そこで重要になってくるのが、改変した抗体の機能、安定性の精密な品質評価です。天然と異なり、人工的に導入したアミノ酸配列から作製された抗体は、時にその構造安定性が著しく低下します。これにより変性さらには凝集体と呼ばれる不活化した粒子を形成することも多くあります。特に凝集体はアレルゲンとなりうる可能性や細胞毒性を示すこともあります。これは医薬品の品質管理として大きな課題です。そのため、開発した抗体の物性を評価するために、凝集性や安定性に関する精密かつ高感度な分析技術が重要な位置づけになっています。また抗腫瘍効果を示す抗体のデザインと、自己免疫を制御する抗体のデザインでは、その抗体の糖鎖構造と、それに伴う抗体全体の物性も設計において重要な位置づけにあります。
本部門では、次世代抗体(改変型抗体)の開発に向けて、物理化学的解析技術を駆使して、あたらしい評価技術の開発を行っています。とくにin vitroとin silicoの物理化学的相互作用解析を組み合わせ、抗体の高機能化へ向けた設計指針に関する新たな基盤技術の提案を目指しています。